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活動報告 / 日本生徒指導学会関西地区研究会「元気の出るセミナー」
活動報告:関西地区研究会 「元気の出るセミナー」
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テーマ:関西発!元気の出る生徒指導 ~安全・安心な学校をめざして~
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「いじめ重大事態における第三者機関の役割と課題を考える」
日 時:平成31年2月23日(土)
場 所:堺市立三国ヶ丘庁舎【大阪府堺市堺区】
はじめの挨拶
日本生徒指導学会関西地区研究会 新井 肇 会長
大津市のいじめに関する裁判の判決がでました。今までにない「加害者が自殺について予見の可能性を持っていたにも関わらずいじめをした」という視点が出てきました。今後の方向性を左右するような判決なのかと思っています。重大事態になり、背景調査を行うと猛烈なエネルギーと時間がかかります。調査委員はもとより、事務的な役割にせよ、教育委員会自体が調査主体になるにせよ、教育委員会事務局は、通常の業務の負担とは違う、計り知れない負担を負うことになります。そして社会の注目の中でどのようにまとめていくのかも問われるなど、大変な作業、大変な取組が課される状況になってくると思います。今日は桶谷先生から「第三者調査委員会の役割と課題」の講義を受け、もう一度原点に戻って子供たちの命を守り、そして尊厳を守っていくために、いじめの問題に我々はどう取り組めばよいのか、第三者調査委員会の背景調査を子供たちの安全・安心・命につなげるためにはどうしたらよいのかという点について考えてみたいと思います。
講義「いじめ重大事態における第三者機関の役割と課題を考える」
京都教育大学 名誉教授 桶谷 守
大津のいじめ事案の民事裁判の判決が出ましました。2012年8月25日に第三者調査委員会がスタート、私もメンバーとして参加することになりました。その後、5か月間で報告書の作成を行いました。先に新井会長がお話しされたようにエネルギーと時間を費やしました。子供たちの学習活動や先生方の勤務に支障のないように、調査は夕方、夜または土・日に行われました。調査で出てきた資料をまとめ、議論することを行い、5か月間でかなりのエネルギーと時間を使いました。そのような中で、口頭弁論でいじめと自殺の因果関係を認めるというようなことがあったり、この年には法律が制定されたりすることになりました。一方、刑事裁判では、子供の行為がどのような形だったのかということで、少年審判が開かれて観察処分となりました。そして大津市は加害生徒3名の子供、親と分離裁判の中で地裁から和解勧告をもって和解が成立し、結審しました。
(1) 第三者調査委員会の各委員間で確認した調査のポイント
- 教育現場の生徒や教員たちに寄り添いその言葉に耳を傾けること
- 亡くなった生徒がなぜ死を選んだか忘れないこと
- 遺族の視点(わが子の教育を学校に委託し信頼してきた親らが、学校で何があったか強く知りたいと願うことは当然のことである。学校設置者である大津市には遺族に対して説明責任があり、本委員会はその説明を果たさなければならないと考えた。)
- 加害をしたとされる生徒の視点をしっかりと受け止めること
- その上で事実解明に当たること
(2) 第三者調査委員会の困難点
- 事実発生から10か月の月日が経っていること(記憶が薄れていること)
- 警察の強制捜査(学校、教育委員会への家宅捜査)が入っていること
- 情報が氾濫していること(学校・教育委員会への嫌がらせ、インターネットでの誹謗中傷、爆破予告、毒物混入等)
- 民事裁判が係争中であること
(3) 第三者調査委員会設置に関する課題
- 法28条によると、重大事態を判定し、第三者調査委員会を立ち上げるか否かの判断権限は、学校設置者と学校が有している。
- ところが国のいじめの基本方針では、児童生徒や保護者から「いじめにより重大な事態が発生した」という申告があった時、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とは言えない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして調査に当たることを求めている。
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学校設置者、学校があきらかに重大事態がないと判断しても児童生徒や保護者からの申し出があった時には、第三者調査委員会の立ち上げをしなければならない。
(4) 第三者調査委員会設置の構成に関する課題
- ①「委員の推薦の在り方」②「委員構成」③「調査委員会の中立性、公平性」④「委員の専門性について」⑤「第三者調査委員会の常設について」⑥「委員の質の確保について」⑦「調査委員会の権限について」⑧「事務局体制について」⑨「調査委員会の公表について」
- 第三者調査委員会を常設している市町村もあるが、緊急時にすぐに対応できるメリットもあるが、保護者や遺族の意向が反映されないこともある。
(5) 第三者、公平性、中立性について
- 被害児童生徒、保護者の意向を聴取することが公平性、中立性に反するか否かを問われるケースがある。大切なのは公平性や中立性に反することではない。「思いや意向を聞くこと」「どのようにして欲しいのか」じっくりと時間をかけて聞く姿勢が大切である。
- 「なぜ我が子が亡くなったのか知りたいと思う遺族の気持ちにこたえるという意識があることを踏まえると、中立性を強調すべきでなく、むしろ必要なのは「公正性」「第三者性」である。
(6) 委員の選定
- ガイドラインでは、職能団体や大学、学会からの推薦により参加を図るよう求めるとしている。選定手続きは、委員の公平性、中立性を担保する意味で極めて有効な手続きである。全国で多くの重大事態が発生した時に、また人口の少ない都市で重大事態が発生した時に、全て外部の専門家で対応するのは難しい。大津や青森の場合も県外から委員に参加を求めた。
(7) 常設委員会
- 法28条重大事態の調査のための第三者調査委員会として活用することを提唱している。
- 被害者側の意向が聴取されているわけではないので、被害者からすれば、公平性、中立性に疑義が生じないように対応することが必要である。
- 被害者側の意見を取り入れながら、委員の追加をすることもある。
(8) 第三者調査委員会による調査方法の課題
- 全体のスケジュール調整と期間
- 調査委員会における留意事項
- 関係書類の入手
- アンケートの実施方法の検討(匿名かどうか、メリットデメリットなど)
- 聞き取りの調査
大津では、加害の子供から話が聞けない状態や3年の進路の時期という事もあり、フラシュバック等を考え聞かないで欲しいという保護者の思いなどがあった。
- 児童生徒からの聞き取り留意事項
- 大津の事案では、子供たちへの配慮として、座席の配置やジュースや菓子を置いてリラックスを心がけた。
- 対象の児童生徒たちは、日々新しいことで記憶が塗り替えられてしまうため、いかに早くするかが大事。
- 関係者への丁寧な説明。
- 実地調査
- 調査対象と調査方針(どこで、誰が行うのか、明確に方針をたてる)
(9) 「事実認定」とは何か ~第三者調査委員会に求められているもの~
- 当事者が調査委員会に求められているものは「本当に何があったのか?」明らかにすること。
- 自死事案では、いじめとの因果関係が認められて最終的には被害者側が救われることまで期待される。
- 納得のいく結論が出るか出ないかは別として、被害者や遺族のために委員をはじめ関係者が動いてくれるのか。
- 被害者の期待値と第三者調査委員会との間に溝がある。被害者側の不信感を募らせ第三者調査委員会が混乱し空転するケースもある。被害者から委員解任要望が出たケースもあった。
- 第三者調査委員会の事実認定が民事、刑事訴訟に繋がるものではないが、重要証拠として裁判所に出されることもある。
(10) いじめの評価について
- 一般的に見て、精神的苦痛を感じるとは見られない行為であったとしても、置かれている状況が明らかに力関係の優位性を生じているのであるから、被害児童にとって精神的苦痛を感じる行為である。被害児童生徒の視点から加害事実を評価していくべきである。
(11) いじめの行為と重大事態の関連性について
- 第三者調査委員会に求められているのは、重大事態の調査ではない。認定されたいじめ行為が自死、不登校等という重大な結果に「何らかの影響」を与えているかを判断すること。
(12) 調査の限界
- 学校の教職員は調査に応じざるを得ない。加害者側は調査に応じないことがある。そうなると調査が学校に集中し、結論として学校の問題点ばかりが指摘される。また、現在では、SNS情報が直ぐに入って、調査に応じるか否かについても、被害者側、加害者側が双方の情報を見ながら、自分にとって利益か不利益かを考える状況が進んでいる。
(13) 報告書の公表について
- 文部科学省は特別な事情がない限り、調査結果の公表を原則としている。
- 概要版やマスキングをして公表するなど、色々なケースがある。
- 平成27年、全国の教委が設置した第三者調査委員会の4割以上、13府県、計18件が公表されなかった。
- 公表するかどうかは、個人情報をどのようにコントロールするかという問題とかなり深くかかわっているため、公表を差し控えることがある。
- 再発防止のために公表は必要だが、遺族の意向も含めることも必要である。
- いかに教育現場にフィードバックするか、最終報告書が出された後に、教育委員会や学校がどのように対応するかが重要である。
- 大津では先生方のパソコンから報告書を見ることができるようになっている。
最後に ~第三者調査委員会の望ましい姿~
- 第三者調査委員会が調査すれば、今まで裁判で明らかにならなかったことが全部クリアになるという期待が関係者だけでなく、メディアも含めてかけられていて重い制度になっている。
- 民事訴訟は、証拠に基づかずに認定することは難しい。また、被害者のコントロール度が低い。逆に第三者調査委員会は被害者側に影響を及ぼしその通りの事実を書いてくれるはずというイメージがある。
- 被害者は、歴史的に弱い立場にあって、虐げられてきたからという逆の正当化原理が働いていることも考えられる。
第三者調査委員会が「全て確定的な事実は分からないが雰囲気としてはこうだ、教育的課題としては、このようなことができる。家庭の養育の課題としてはこんなことがあると思う」と言うことができて、第三者調査委員会がそういうものだということを認知されれば良いと思う。学校現場は、いじめがおこらないようにと考えるが、ゼロはあり得ない。全国の25%の学校がいじめ件数ゼロである。今後もこの会の研修のように「望ましい形」をメッセージとして出していくことが必要であると考える。