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日時:令和6年8月3日(土)
場所:奈良県立教育研究所 【奈良県磯城郡田原本町秦庄22-1】
日本生徒指導学会副会長 関西地区研究会会長 新井 肇
夏休みに入り、2週間が経ち、酷暑の中、奈良県まで足を運んでくださり有り難うございます。
生徒指導を充実したものにしていくには、「管理職のリーダーシップ」、 「生徒指導主事・学年主任等のミドルリーダーシップ」、「教職員間のつながり」が不可欠です。
これらの力を学校の中だけにとどめず、市町村レベル、府県レベル、さらには府、県、政令指定都市等の垣根を超えて拡げていくことが大切です。本日のように、多くの方が同じ場に集まり 交流し、共に課題について考えていくことが、子どもたちの幸せ、先生たちの元気に繋がっていくものと思っています。
暑い中での長丁場の学びの機会となりますが、参加した皆様が何かを持ち帰っていただけることを願っています。
奈良県教育委員会事務局 高校教育課 課長 小嶌 倫世
豊かな自然と古(いにしえ)の歴史が織りなす奈良の地にようこそお越しいただきました。全国的にも大きな課題である不登校児童生徒の増加は、奈良県も例外ではありません。奈良県では不登校生徒への支援として、県教育委員会と県PTA協議会が協働し、昨年度より「奈良県ネットワーク型フレキシスクール『不登校支援ならネット』」を開校しました。中学校への出席が年間10日程度で、どの支援にも繋がっていない中学生を対象に、県立教育研究所と5つの市それぞれにオンラインクラスを設置し、学習支援を行っています。また、各種行事や居場所活動にも参加することができます。
さらに、本年度から県立高等学校の全日制課程に在籍する生徒が、他の県立高等学校の通信制課程で学ぶ学校間連携を始めました。これは、全日制課程で不登校になった生徒が、通信制課程で学ぶことで、所属校での単位として認定される制度です。
このように今後も様々な背景をもった不登校生に対して、様々な選択肢と支援を考えるとともに、未然防止も含めた取組を進めて参ります。
本日は、限られた時間ではございますが、本大会が、皆様方にとっていつまでも心に残る「生徒指導に係る研修の『まほろば』」となることを願います。
関西外国語大学教授 新井 肇
子供たちを取り巻く状況が非常に大きく変化しており、その中で不登校、自殺、いじめそして暴力行為の増加が非常に深刻な状況である。これらの課題を克服していくために生徒指導は何ができるのか。児童生徒が「未来を生き抜く力」を身につけるために、生徒指導ができることは何か。『生徒指導提要』改訂の背景を押さえながら、生徒指導をめぐる状況と問いの変換について考え、「これからの生徒指導の方向性」や「発達支持的生徒指導」が何を意味しているのか俯瞰的に捉えていく。
自殺、いじめ、暴力行為は非常に深刻な状況にあり、これらの課題を克服していくために、生徒指導は何ができるのか、変動社会の中で、子どもたちが未来を生き抜く力を身につけるために我々は何ができるのかが問われている。
令和4年度の小・中学校の不登校児童生徒数は約30万人であり、近年その増加率も高い。高校においても増加率が高くなっている。不登校は問題行動ではないが、社会的に自立ができず、引きこもりのような状態になってしまうとすれば問題である。このような状況を考えると、「児童生徒はどうして学校に来ないのか」という問いから「児童生徒はどのような学校であれば来るのか」という問いへの変換が必要である。
令和4年度のいじめの認知件数が約68万件で過去最多となっている。いじめが深刻な状態であることを示している一方で、教職員がどんないじめも見逃すまいと、危機感を持って認知に取り組んできた成果の表れだとも言える。深刻化を防ぐことをめざしてきたが、令和4年度の1号重大事態発生件数が448件、2号重大事態発生件数が617件でどちらも過去最多であることが大きな課題と言える。このような状況の中では、「いじめられた被害児童生徒をどう守るか」に加えて、「児童生徒がいじめをしない人に育つにはどうしたらよいのか」という問いを立てることが求められる。
令和4年度の暴力行為発生件数が20年間で最多であった。特に、小学校低学年での発生件数が増加している。いじめ防止対策推進法ができたことにより、積極的にじゃれ合いなども暴力行為にカウントするようになったこと、攻撃性・衝動性のコントロールを苦手とする子どもたちが増加していること、加えて、ヴァーチャルな世界を通じての暴力性の学習が広がっていることが要因として考えられる。このような状況の中では、「児童生徒がどうすれば衝動性をコントロールできるのか」から「どのような関係、どのような状況が衝動性を高めてしまうのか」という問いへの変換が必要であろう。
令和5年度、513人の小・中・高校生が自らの命を絶っており、児童生徒の自殺が急増傾向を示している。このような状況の中では、「社会で子どもが幸せになるにはどうしたらよいのか」という問いではなく、「私たちがつくってきた社会は子どもにとって、本当に幸せな社会なのか」という問いへの変換が必要であり、「大人と子どもが一体となってこれからどんな社会を作っていけばいいのか」ということが大きな課題であると言える。
問題行動は、子どもたちの「問題提起行動」とも言える。困った行動をする子どもたちは、実は課題を抱えて困っている子どもと考えることができる。この視点に立って、生徒指導を進めていくことが求められる。
また、子どもたちが予測困難な変動社会を生き抜いていくためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合いながら、その過程を通して一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、幸福な人生だけではなく、より良い社会を作り出していくことが重要である。「多くの知識を身につけ、現実にどう適応していくのか、そのために何をやればいいのか」ではなく、「今ないものが現れてきた時にどう対応するのか、また新たなものをどう創り出すのかという、対応力、想像力を子どもたちが身につけるために我々は何ができるのか」という問いへの変換すなわち、学習観の転換が求められている。
生徒指導提要の改訂が行われ、生徒指導の目指す方向性が示された。1つ目は、特定の児童生徒に焦点化した事後の指導、援助から、すべての児童生徒を対象に、自発的、主体的に成長、発達する過程を支える生徒指導へと重点を移行していくこと。2つ目は、教室での教科の学びを社会で充実して生きることにつなげるために、生徒指導の4つの実践上の視点を授業の中に埋め込み、学習指導と生徒指導の一体化を図ること。3つ目は、学校内外の連携に基づくチーム学校による生徒指導体制をつくり上げていくことである。
生徒指導提要(改訂版)では、生徒指導の2軸3類4層の重層的支援構造が示されている。個々の実践や学校の取組を絶えず振り返り、その対応で良かったのかどうか、また次にどうするのか、それぞれの局面で何がやれていて次には何をめざすのか、ということを理解した上で、見通しをもった生徒指導を進めていくためには、構造化することが不可欠である。特にその基盤となる「発達支持的生徒指導」については、特定の課題を意識せずに、すべての児童生徒を対象に、日々の教職員と児童生徒とのコミュニケーションを通じて、児童生徒の成長・発達を支える働きかけであることが強調されている。また、授業は、発達支持的生徒指導の最たるものであり、学習指導と生徒指導の一体化を図ることが、これからの生徒指導において極めて重要である。
生徒指導を定義すれば、「社会で充実して生きることの指導(ガイダンス)であり、援助(カウンセリング)であり、支え(サポート)」である。これら三つを総合した「支援」こそが生徒指導であり、子どもたちのウェルビーイングの実現を目指すものと言える。
チーム学校によって支える生徒指導を推進していくこと、子どもが主役の学校づくりを進めること、 学校目標、生徒指導目標をボトムアップで作り上げて共有すること、学校長のトップリーダーシップとミドルリーダーの横のネットワークを機能させること、学校を外に開くこと、教職員も失敗を恐れずにチャレンジすることを通して、学校が子どもにとっても、先生にとっても、元気でいられ、安全・安心な温かい場となることが重要である。
ファシリテーター: 日本生徒指導学会関西地区研究会 副会長 桶谷 守
シンポジスト: 日本生徒指導学会副会長 日本生徒指導学会関西地区研究会会長 新井 肇
立場の異なる4名のシンポジストが、「発達支持的生徒指導の具体化に向けて」について、基調講演及び、国の取組、市町村教育委員会の取組、学校の取組による話題提供を行う。
和歌山県立紀北農芸高等学校 教諭 吉田 大樹
中学校時代に不登校であった生徒や、生活習慣や学習習慣が定着していない生徒も多く在籍し、様々な背景をもった生徒一人一人に合わせた支援が必要になってきている。そこで、入学時の情報収集や教職員間のタイムリーな情報共有を大切にしていきながら、多くの大人が生徒に関わっていくことで成長につなげていきたいと考えている。
本校の特色である「農業」を生かした教育では、作物を育てることで得られる達成感、消費者に喜んでもらうことで得られる自己肯定感の醸成、自然の中で活動をおこなうことによる心の安定を期待することができる。また、仲間とともに農作物の生産・加工から流通・販売といった体験的な学びを進めていくことで、生徒自身が個性を発見し、社会的資質を向上させることで、将来をデザインするキャリア教育につながっている。教職員との関わりについても、教職員から農作業中に自然な声かけや励ましをすることで、双方向のコミュニケーションが生まれ、生徒の他者理解や自己理解につながっている。このような発達支持的生徒指導の取組が、中学校時に不登校であった生徒も登校できる環境を作り出しているのではないかと考えている。
YUI Connection株式会社 代表取締役社長 髙野 修一
設立と同時に、全国の小中学校向けに「結-EN」の提供を開始し、2024年6月現在、60以上の自治体でトライアル導入してきた。
結-ENは、児童生徒一人一人の学校での様子を見える化し、一人一人の児童生徒に適切な教育プランを教員に提供するサービスである。結-ENの核となるIN-Child Recordの構成や具体的な情報連携・行動連携の事例、利用者の声、利用教員の結果等について発表された。
京都市教育委員会指導部生徒指導課 首席指導主事 水野 博之
新任管理職研修での講演の内容は、いじめ対応における危機管理として、法的な理解、早期対応・組織対応の重要性について話している。また、学校の危機管理に関して、管理職としての心得や、風通しの良い職場づくりについて問題を提起している。後半は具体的な事例演習として、いじめや保護者対応などの演習を行い参加した新任管理職が、グループ内で実践的に討議している。
事前に配布した管理職の危機管理「日日是好日」を題材に、各校のリスクマネジメントについて意見交換を行っている。「他校で起こったことは自校でも起こる」ことを念頭に、いじめ編では、実際に対応した事例から、長期化しやすいキーワードや重大事態となった事案をわかりやすく紹介している。これまでの「実践知」を、多くの管理職や指導主事などに伝承していくことで、子どもの命を守り、安心・安全な学校づくりの一助にしたいと考えている。
臨床心理士学校心理士スーパーバイザー 阪中 順子
小中学校で、自殺予防の「核となる授業」2コマを実施後、「聞く技みがかせて」と題して、聞くことの意義やはたらき、上手な聞き方・下手な聞き方、気持ちを分かろうとする聞き方等について考え、体験する授業を1コマ実施した。その後回数はいろいろだが、「聞く技みがこう1分間」というペアワークを、朝の会や終わりの会、特別活動の導入等で、各3分ほど実施した。
「聞く技みがこう1分間」ペアワークは、①ペアになる、②役割(聞く人・話す人)を決め、役割をきちんと意識する、③1分間、相手の話を分かろうとして聞く、④役割交代、⑤1分間、相手の話を分かろうとして聞く、⑥次回は、違うペアと①②③④⑤に取り組む。分かろうとして聞く体験、聞いてもらえる体験を繰り返す。
一定期間を実施した後、「心といのちのアンケート」8項目を実施し、効果を検証するとともに、体験した児童生徒や実施クラスの担任から感想を得た。
兵庫県教育委員会事務局義務教育課 主任指導主事兼主幹 酒井 亮
同 主任指導主事 藤本 晋平
1 兵庫県の不登校児童生徒の状況
2 これまでの本県の取組
3 令和6年度の本県の取組
滋賀県教育委員会事務局幼小中教育課児童生徒室 主査 田中 哲郎
同 指導主事 永元 良典
滋賀県子ども若者部子どもの育ち学び支援課 参事 清水 仁
滋賀県では不登校の子どもの支援のため、「しがの学びと居場所の保障プラン」を策定した。プランでは、多様な学びの機会と安心して成長できる居場所の確保を目指し、子どもの状態に応じ、教育と福祉の観点から、教育施策と子ども施策に取り組む関係機関が連携した「チーム」で支援することとしている。そのプランと、今年度の取組状況について以下のように発表した。
三重県教育委員会事務局生徒指導課不登校支援班
本分科会では、学校を中心とした「未然防止」、関係機関やSC、SSWを活用した
チーム支援による「早期対応」、多様な学校外の学びの場である教育支援センターやフリースクール等と連携した「自立支援」の三つの視点から、それぞれの取組が重なり合い、誰ひとり取り残されない不登校児童生徒に対する支援を実現し、そこで育った子どもたちが、将来誰ひとり取り残されない社会を築く一員となってもらうべく取組を進めている、三重(さんじゅう)の不登校支援について報告した。
大阪市教育委員会 教育活動支援担当生活指導グループ 総括指導主事 堀川 直樹
大阪市立井高野中学校 教頭 谷川 雄一
大阪府教育庁市町村教育室小中学校課生徒指導グループ 首席指導主事 中野 悟志
同 指導主事 家村 憲治
大阪府では、子どもたちが安心・安全に通うことができる魅力ある学校づくりをめざし、発達支持的な取組みを推進しているところ。授業を始めとする教育活動全体で取組みを進めること、その際、取組みの基盤を成す教職員の同僚性を育むポイントとして、明日から取り入れられる具体的な実践や工夫についてお伝えする。