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学校園と地域が一体となった生徒指導機能向上を図る組織的取組
~みんいく(睡眠教育)による不登校改善の実践について~
日 時:平成29年10月21日(土)
場 所:堺市立堺高等学校【大阪府堺市堺区】
日本生徒指導学会関西地区研究会 新井 肇 会長
福井県の事案を受けて、文部科学省からの通知が昨日ありました。児童生徒理解に基づく生徒指導を進めてきたが、ほころびが出始めているのではないかと感じています。
本日は「みんいく」というテーマで、地域と学校が一体となって不登校その他児童生徒理解に基づく取組について互いに学び合う機会がもてることをうれしく思います。
危機やよくわからないことが起きているときには、もう一度「原理原則に立つ」ということが必要であり、このような学びの場をもつことは非常に大切なことです。個人的な感覚なのですが、日本の社会全体(企業や政治を含めて)が劣化しているのではないかと感じています。全体(皆)で丁寧に議論を重ね、積み上げ、できることできないことをはっきりさせて(何ができるのか)今の課題にどう取り組んでいくのかという、根底から考えていくことが大切だと感じています。
教育に関しては、総合的な丁寧さが必要であり、生徒指導を中心に日本の教育が、どういう成果・課題・方向性であるのかということを共に考えていかなければならない状況にあると感じており、このような「学びの場」を大切にしてほしいと思います。
堺市教育委員会 学校教育部 生徒指導課 中岡 久典 指導主事
堺市立中学校の不登校生徒数の推移は、H24からH28でほぼ横ばいである。不登校生徒数は新規数と継続数の合計であり、全体として年度替わりには半減するが、のちに新規数が増加して、ほぼ例年並みの不登校生徒数になっているのが現状である。この新規数の抑制に向け、指定校(2校)では、加配教員を中心に取り組み、成果が見られている。ただし、中1ギャップへの取組や継続数の増加などの課題は残っている。
堺市教育委員会 学校教育部 生徒指導課 木田 哲生 指導主事
この「みんいく」のはじまりは、突然休みはじめた生徒について理由や原因が不明であり、どうすれば良いのかわからないという不登校生徒への対応であった。こんな時、三池医師(熊本大学名誉教授)の研究との出会いがあった。この研究で脳の疲労によって発症するとされる「小児慢性疲労症候群」であり、睡眠の乱れが1つの要因とされている。症状は、体力低下・睡眠トラブル・頭痛吐き気・認知脳機能の低下などがある。認知脳機能の低下の症状では、IQが約20ポイント下がるとも言われ、そもそも慢性疲労の状態では学習ができないということである。睡眠の乱れによる生活リズムの乱れが、体内時計のズレを起こし生体リズムが崩れることになる。そこで睡眠改善の取組としての「みんいく」を堺市全体で進めていきたい。実践校の成果として、登校改善・自尊感情の高まり・授業への集中・暴力行為の減少という傾向が見られるが、推進リーダーの育成や地域社会全体での実践などに多くの課題があると感じている。
日本生徒指導学会 関西地区研究会 森田 洋司 名誉会長
堺市の取組「みんいく」にある睡眠については、以前、文部科学省にて研究チームがもたれ、生物学的に捉えた研究で、特に「睡眠と食事」についての内容でした。社会全体では「働き方」改革がうたわれているが、むしろ睡眠「寝方」が大切ではないかと感じています。すべてのことが睡眠で解決するわけではありませんが、今回の発表は、各種のデータをもとに進められているところが有意義であり、これからの生徒指導に必要であると感じています。
最近は、養護教員への研修が増えています。養護教員の活動の在り方についての文部科学省の報告書の中で、生徒指導の視点がかなり加わっています。チームとしての学校の視点から、養護教員と生徒指導担当教員とは大切な連携パートナーです。各校にほぼ1人配置で保健室を守る養護教員は孤立しがちですが、管理職などが上手な活用を促すことでマンパワーが活かされます。また保健室は、児童生徒の重要な情報をもっている場所でもあり、生物学的な観点を含めて養護教員との連携の中での指導など、あらためて役割が注目されているところです。
この調査票は小学校3年生から活用している。低学年では、別の簡易版にて実施している。
まずは全教員に取組への理解を求め、少数の教員での取組を始めた。全教員に報告を繰り返し、成果が見られるまでには半年ぐらいかかったが、その後、取組が学年や全校に広がっていった。
保健室との連携は大切である。来室者に簡単な睡眠アンケートを実施することにより、体調不良との関連を考える機会になると思われる。
日本生徒指導学会 関西地区研究会 桶谷 守 副会長
発表の2名の方、ありがとうございました。関西地区研究会は、「現場に役に立つ研究を行う」ことが立ち上げの理由でした。理論と実践の往還をしていくことにより普遍化を図っていくことが当会の役割だと思います。
「みんいく」については、データに基づくエビデンスを用いて研究が進められていました。また、学力と「みんいく」との関係は、今年の全国学力・学習状況調査の小6のところ(決まった時間に寝起きしている→正答率が比較的高い)で相関関係が現れています。
かつて日本人は丁寧な仕事をし、色々な物や関係性をつくりあげてきたことは、日本の財産であると思います。はじめの挨拶にもあったように、社会全体の劣化や欠落があるように感じています。福井県の事案においても、色々な問題が内在していると思います。不登校やいじめの問題、子供たちの問題行動、子供の発達を阻害する要因、 発達の課題や特性など、避けて通れない問題です。一人一人の子供に対してチームで関わる時、大事なことはアセスメントです。子供の背景、関わりと反応、保護者の反応など、様々なことがありアセスメントの必要性を感じています。
児童生徒理解において、子供の後ろに隠れている生活の状況・特性・課題についてチームで丁寧に議論し、できることを明確にしていくことが大切です。例えば「みんいく」の発表の中で、不登校解消の成果は3割改善であるが、それは7割は改善されていないことを示しており、一つ一つ課題解決していくことが求められています。
安全・安心な学校づくりのための和歌山県の取組
日 時:平成30年1月27日(土)
場 所:和歌山県民文化会館【和歌山県和歌山市】
日本生徒指導学会関西地区研究会 新井 肇 会長
生徒指導の観点でみると、学校現場では色々な問題が山積しています。いじめ不登校・発達の課題などの問題、保護者地域関係機関との連携についてなど色々あると思います。平成28年度(文科省調査)、いじめの認知件数は32万件を超え、難しい冬の時代であり、何とか踏ん張って青空が見えるようにしたいと感じています。そのためには現場の実践と研究機関の理論とを結び付け、実践を振り返りながら理論と融合させていくことが大事だと思います。
生徒指導上の課題として、本セミナーで2つのテーマを発表していただきます。1つ目は、不登校についてです。不登校児童生徒の再びの増加にどう取り組むかという時期にかなったテーマです。2つ目は、特別支援教育の視点についてです。今、いじめ問題と発達の課題が絡んでいるケースがあり、丁寧に生徒指導を進めることを考えると、特別支援教育と生徒指導との協働が必要です。さらにアクティブラーニングなど授業と生徒指導の一体化、授業を成立させるための生徒指導ではなく、授業に内在している生徒指導をいかに充実させていくのかという観点で取り上げていただいたテーマです。学びの機会を提供していただき感謝しております。
和歌山県教育庁学校教育局 県立学校教育課 前田 成穂 課長
発足当時の関西地区研究会は、夏と春の2回開催でしたが、当時の森田会長の「春を止め(その代りに)近畿の各地に出向き、元気を伝えたりもらったりしよう」という主旨で「元気の出るセミナー」の開催に至ったと記憶しています。今回は、県の大きな課題である不登校対策について発表いたします。また、有田中央高等学校の特別支援教育の視点に立った生徒指導・学習指導・生徒支援について発表いたします。平成30年度から高等学校における通級指導が制度化されることもあり、有田中央高等学校を平成29年度指定校として取り組みました。これからの高等学校教育について、この取組は、他(他県・他都市)でも参考にしていただけるのではと思っています。
和歌山県教育庁学校教育局 義務教育課児童生徒支援室 古久保 隆也 指導主事
平成26年度における本県の千人当たりの不登校児童生徒数は、小学校で全国47位(最下位)、中学校で全国45位であり、本県では不登校を大きな課題であるととらえている。これまで本県では、魅力ある学校づくり集団づくりに取り組み、教育相談主事・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーによる対応の充実にも努めてきた。また「いじめ問題対応マニュアル」「不登校を生まない集団づくり」などのマニュアルやリーフレットを作成し、教員の資質向上を目指してきた。
平成27年12月「和歌山県不登校対策有識者会議」を組織し、平成28年6月まで計5回開催した。この有識者会議からの提案をもとに、平成29年4月「不登校問題対応の手引き」を作成し、県内全ての教職員に配付するとともに、あわせて研修を実施した。また登校しても教室に入れない児童生徒への別室指導等を行う不登校児童生徒支援員を配置し対策を進めている。
和歌山県立有田中央高等学校 生徒支援部長 窪田 光利 教諭
本校では、長年にわたる学校の抱えている課題への対策として、特別支援教育に関する研究等に取り組んでいる。背景として、入学生徒は「仕方なく(不本意な)入学」、教員は「乱発する問題行動への対応で疲弊」、地域は「学校への信頼の低さ」があり、問題行動等をくり返す生徒について対応に苦慮していた。卒業後の進路未決定者も多く、保護者や地域から信頼等を得ることが難しい状況であった。
平成22年度より「有田中央高校イノベーション」と称して、「生徒一人一人の出来ること、やろうとする気持ちを育み、学校全体の活力を高める」ことを目指し、様々な改革を学校全体で取り組んだ。取組の一例は次のようである。①平成25年6月「化粧の全廃」に向けて、生徒指導部の取組ではなく全校(全教職員)での取組。②地域からの信頼回復に向けて、全教職員で登校指導を行う日を設け、校内や正門付近にとどまらず地域に出かけての指導。③授業改善(授業力向上)を目指し「授業研究の推進」「授業アドバイザーの招聘」「授業の構造化」「ICTの活用並びに学習環境のユニバーサルデザイン化」への取組。
成果としては、信頼関係に基づく生徒指導が進められ、生徒の成長が実感できるようになっている。就労に対する希望や社会に積極的に関わる意識が芽生え「教員→生徒→学校→地域」が変わるという壮大な構想が進められている。
日本生徒指導学会 関西地区研究会 森田 洋司 名誉会長
まずは先程(後半)の発表、有田中央高等学校の取組についてですが、素晴らしい取組であり何も申し上げることはございません。我々がかねがね言っていた生徒指導の観点が盛り込まれております。特別支援教育の観点で、それぞれの課題を知り、特性に寄り添う支援の体制を取っているという事例を紹介していただきました。大事な視点であり吸収できることが多かったと思います。
以前、広島県の工業高校の生徒指導担当の先生に実践発表をお願いしました。高等学校にてキャリア教育に力を入れ、就労の保障が子供たちの未来に対する希望を育て道筋をつくることや、地域を豊かにし担っていく人材を育成することが、地域に根差す高等学校の役割であると言われていました。地域に特化した高校教育以外では地域という概念が薄くなるのが一般的ですが、これらの発表では地元に根差した高校の在り方や取組など、有効な視点がありました。
次に、発表の中の課題で出ていた「学び直し」についてです。小学校で勉強のつまずきを多く抱える子供たちがいて、この子供たちが我慢しながら机に座って勉強し、やがては中学校や高等学校に進学していきます。小1(低学年)は学校に適応することでよいのですが、小2(低学年)からは勉強での大事な時期に入ります。ある県の対策で、小5小6(高学年)で加配をつけるべきという方向性が出され、進学のための準備となる懸念を感じました。むしろ小3小4(中学年)でつまずき始めの崩れやすいところで、基礎をしっかりと身につけるための補強的な加配が必要だと思います。加配で補強できない所では、普段より地域の方が学校に入り込み、先生が気付きにくいところにも手が届く取組がなされています。放課後教室などに頼らずに、まずは「授業を変えていく」など学習を大事にする。このように学ぶ力(基礎学力)を育てることは、小中学校の段階が大事であるということです。
前半の発表、不登校対策については「和歌山県不登校対策有識者会議」に関わっているので講評する立場ではないのですが、色々な苦労をしながら良い方向に向かっています。不登校の研究者は、原因を見定めながらそれを防止していく「原因予防パラダイム(過去→現在)」をつくります。ところが原因の複雑化などでトライ&エラーが続くので原因探しはほどほどにし、むしろ「状況的パラダイム(現在→未来)」の方が有効だと思います。不登校の最終目的は社会的自立です。
もう一点、不登校の未然防止やアセスメントに日常観察を十分に生かすことです。チーム学校として、養護の先生も加わり健康観察(学校保健法第9条)が必要です。情報収集しアセスメントに生かしていくのです。学力や行動のみならず健康面を重視し、情報を集約していくことが大事な作業になります。後半の発表でありました「特別支援教育と生徒指導との関係」も大事ですが、チームとしての学校をいかにして築いていくかという観点でも、「養護と生徒指導との関係」が大切です。不登校は問題行動ではなく問題を背負った結果として捉えるべきであり、継続的な(対策ではなく)支援が必要だと思います。
*時間の都合で割愛