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講 演:「いじめ対策と司法〜弁護士から見た学校〜」
多聞法律事務所 弁護士 中川 勘太 さん
日 時:平成26年10月25日(土) 10:00〜12:00
場 所:兵庫教育大学 神戸ハーバーランドキャンパス
近年、ネットワークマインドに対する意識の向上は図られているが、本日の講演のリーガルマインドについての学校現場の認識は不足しているように思われます。
説明責任をしっかりする必要が、学校現場には求められているので、問題行動等の未然防止の観点からも、法的な視点を学校がしっかりと取り入れていくことは、今後さらに必要不可欠なものになっていくと思われます。
国からの自殺・不登校に対する通知文に即して、法に基づいた学校体制づくりを行う必要があります。理論や法律による個々の事案への対応についても、今後ますます重要になってきます。
学校の中で、法律は制度としては必要なものです。しかし、個々の事案それぞれについて法律で決めていくことに関してはなじまないと思います。近年、司法の専門家として、この部分において、少し疑問に思う流れがあることも事実です。過去の判例は、すべて学校の裁量権を尊重した判断がされており、むしろ学校の裁量権を逸脱した時のみ違法とされています。
いじめ事案に対しては、大きく分けると調査・報告と対策の2つに分けられます。
いじめにおいて、学校が違法とされるのは、安全配慮義務による違法性についてのみです。そもそも学校には、強制的な捜査権はないことから、いじめの訴えがあったとしても裁量権に沿って調査を行い、その説明がしっかりとできることが大切です。訴えによって、学校がいじめを見つけ出す調査を行うことが司法として、正しい判断ではありません。あくまでも、学校は教育的責任を負うところです。学校では保護者との関係の中で、事実とは違う曖昧な話で、保護者側に話を合わせてしまうことが多々あります。このことは、司法では虚偽報告になることがあります。あくまでも事実に沿って確認を行っていくことが大切です。裁判所は、いじめが見つかったなどの結果を問うものではなく、あくまでも裁量権に沿って合理性があるかどうかが審議されます。
対策としては、@集団的、組織的な取組 A保護者との連携 B 記録の重要性の3つのポイントがあげられます。特に、記録の重要性については、「行わなかった対策」についてしっかりと理由を記録しておくことが大切です。ほとんどの訴訟が、この部分で、学校は何らかの理由でしなかったことが多いわけなので、この部分をしっかりと記録しておき、裁量権として説明がつけば良いと考えます。あくまでも、学校は教育的な実践の場であり、ここに大きな裁量権があります。
(加害生徒) ・民事責任 ・少年法上の処分
(加害生徒の親) ・監督者としての損害賠償責任
(学校の民事責任)・教職員の安全配慮義務がある場合の損害賠償義務
学校設置者に対して行われるもので、最高裁で既に、最終判決として公務員に個人賠償義務はなしとの判断がされています。
過去において、判例に基づいたものしかなかったが、法律化された意義は大きいと思います。しかし、いじめの定義が広すぎるため、法的根拠については曖昧になっています。そもそもいじめについては、様々な事案が考えられるためこうなったとも考えられます。
学校は、初期対応からしっかりと取り組み、信頼を得ることが大切です。この部分が教育のプロとしての自覚であると思います。事実をしっかりとまとめ、マスコミ対応では公平な情報発信を行い、学校としてのポジションペーパーを作成し、事実だけを発信する。目の前の記者に理解してもらおうとは考えず、淡々と事実だけを話すことが望ましいと思います。情報については、窓口を一本化するなど、学校長が情報の一元管理をすることが良いと考えます。
司法的判断と教育的判断の境目を見極めながら、教育のプロとして気ままな判断をするのではなくて、今日の講演会の内容にもあった教育現場での裁量権に準じた判断と説明責任が必要です。ついては、それが現場に元気と自信を創り上げることにつながることが大切です。
発 表:「堺市のネットいじめ防止に向けた取組」
堺市教育委員会 学校教育部 生徒指導課長 川島 強さん
「『いじめ防止対策推進法』施行後、SSWはどう考えどう動くか」
堺市チーフソーシャルワーカー 黒田 尚美さん 水流添 綾さん
「不登校児童生徒への対応について」
日本生徒指導学会関西地区研究会 森田 洋司 名誉会長
日 時:平成27年1月24日(土) 10:00〜12:00
場 所:堺市役所 本館3階 会議室
いじめ防止対策推進法が施行され1年あまりが経過します。本日も文部科学省で子どもたちが集まり、いじめ問題を考えるサミットが開催され、教育委員会や学校が未然防止の取組の一層の推進を図ることが求められています。また、法の施行後の学校や保護者の認識についても、若干のズレが感じられます。本日は、堺市のネットの問題に対する取組の紹介をしていただくとともに、家庭・地域・学校をどのように繋ぐかをSSWの取組を通して、発表をしていただきます。最後には、喫緊の課題でもある不登校の今後の対応について検討、協議がされます。是非、今後の取組のヒントとしていただきますようによろしくお願いします。
堺市のネットいじめ防止の取組については、
『ネットいじめ防止プログラム事業』
『スマホ、SNS のトラブルから子どもを守る指導者研修』
『情報モラルに関する様々な情報を学校へ提供』
の3本の柱で取組を進めています。
中学1年生のケータイ、スマホの所持率が年々増加し、H25年度のアンケート調査において76%となっていることもあり、全中学1年生を対象に、ここ数年、授業を行っています。授業の中では、ひとり1台のパソコンを使い(トラブルを自分から起こさない)(トラブルに巻き込まれない)(トラブルに巻き込まれたらどうしたら良いか)の3点について学習しています。アンケートの結果から、今後は中学生だけでなく、小学生の所持率の上昇も感じられるため、情報モラルに関する授業を小学生に展開していくことを来年度に向けて検討しています。指導者研修については、主に大阪府中心の取組を堺市でも活用しています。今後も大阪府、大阪市、堺市が連携しながら情報モラル教育等について更に取組を進めていきたいと考えています。
堺市のスクールソーシャルワーカー(以下SSW)は現在8名(内チーフ3名)おり、学校長の派遣依頼によって担当の指導主事とSSWが連携をとりながら派遣されます。いじめ防止対策推進法の施行後、学校や保護者の法のとらえ方も多様であるように感じます。法を解釈するにあたって押さえておかねばならないこともあると思います。この法は、いじめを加害・被害としてとらえているが、学校は加害の生徒にも、様々な背景があるように、両者ともに児童生徒として関わりを持っています。また、ひとつひとつの事案自体が学校では複雑に絡み合うように日々、発生しています。事実確認をする時に困難にしている要因の一つに、福祉に携わる人は、ケースの記録として個別のカルテがあるが、学校では過去にさかのぼったものについては、生徒指導の経過や記録が残っていないことが少なからずあります。学校は調査機関ではありませんが、この法は調査し判断することも求めているため、多忙な学校現場に、難しさを与えているように感じます。
SSWにとって大切なことは指導を行うことではなく、どのように事案を見立てるかです。加害のアセスメントだけでなく、学校・学級など様々な見立てが必要になります。何よりも大切なことは、かかわりを持ち見立てたらすぐに解決するというわけではないため継続的にかかわることが重要になってくると思います。いじめ、虐待、不登校といった生徒指導上の課題を解決の方向へ導くとともに、子どもの発達や学習保障を支援するためにも、学校現場の中にSSWの活動が今後、更に有効に活用されるよう考えながら活動しています。
国のほうで不登校の対策やフリースクール等の研究に対して検討がなされます。不登校の特性に合わせてどのように教育を進めていくのか本質が問われています。多様性の視点からも、幅を広くとらえながら、不登校の対策について検討していく必要があります。
いじめ防止対策推進法の中での重大事態としての不登校では、期間が明記されているが基本方針の中では、早期対応の視点が大切であるとされています。また、いじめが絡んでいなくても、不登校としての初期対応を学校全体として行っていく必要があると認識していくことが重要です。不登校は、義務教育で長期欠席という行政概念に基づくもので、事象や状態をさしているわけではありません。つまり、その原因は、多様で複雑です。広く考えると3つの対応軸があります。
心の問題としてだけではなく、長い時間の中での進路形成の問題としてとらえる必要です。特別支援教育の支援プログラムと同様に、不登校の子どもの原因については、長い時間のなかで変化するといわれています。したがって、長期的な視点に立って、継続的に計画を立てPDCAサイクルを意識するなどして状況に合わせて、支援を効果的に実施する必要があります。
特別支援教育の個別の教育支援計画や指導計画の考え方を活用しながら不登校の改善を図ることも、私としてはヒントになるのではないかと考えています。総合的な評価に基づいて、教育委員会や学校の中で組織的に対応していく必要があります。
ライフステージを通じた一貫した相談支援となるように学校、福祉、医療保健労働関係者や専門家などで支援を考える必要があると思います。本人や保護者のニーズを正確に把握し、本人が合意する形が大切です。また、個別の支援計画には、支援目標・実施時期・支援者の役割分担及び支援方法などを記述するとともに、地域・学校・家庭といった生活全般を含めて設定することが大切です。
不登校の追跡調査によれば、かなりの部分において、長短はありますが、一定の「潜伏期間」が存在すると推察されます。一度、欠席が長期化すればそこから回復することが困難であることがデータによって示されています。
「最初に学校を休み始めた」時期と、欠席が長期化した時期の間にある「潜在期間」に注目し対応を考えることも必要です。また、最初に学校を休み始めた時期は、中学1年生において一番割合が高く、小中一貫の取組が大切です。このことは小中学校だけでなく、高校1年生にもあることを知っている必要があります。
不登校児童生徒への支援内容についても、学習や人間関係のつまずきを解決し克服する能力、家庭での基本的な生活習慣、個性のダイバーシティーを受容し承認する力など様々です。
不登校のきっかけとして、追跡調査による割合と文科省調査の割合のギャップをどのようにとらえるのかについても議論していく必要があります。
本日の話は、1点に絞ってさせていただきましたが、あくまでも今から議論されることで、今の時点では、私自身の私見の中の一つであることを付け加えさせていただきます。
堺市のネットに関わる問題について大きく3点について発表をしていただきました。とりわけ現在、現場においてLine等への書き込みついて大きな問題となっております。私も先日の研修会で書き込みの内容について話をする機会がありました。みんなで遊びに行くときに「なんで来るの?」といった、来る手段を書き手は聞こうとしても、受け取る側のとらえ方は様々であり、それがトラブルに繋がるといった話をしました。
また、教育現場の中で、法と現場をどのようにつなげていくのかといった視点についても話がありました。各自治体や学校において基本方針が策定される中、今後はどのように具体的な運用を行っていくのかが問われています。目の前で起こる現象に対して指導するだけではなく、子どもの背景を深く知りながら、なぜ起こるのかといった視点で、未然防止の取組を更に進めていく必要性を法は謳っているように感じます。森田先生からは、これからの不登校の問題に対しての取組についてだけでなく、気になる子どもの記録を継続的にとりながら日々の指導にいかしていくことが大切であるといったお話しをいただきました。
本日は、堺市の関係の方や、これからの生徒指導上の課題について考えるきっかけを多様な視点で提示していただいた発表者の方に感謝いたしたいと思います。
本日は、誠にありがとうございました。