日本生徒指導学会関西地区研究会では、平成21年度の活動として「元気の出るセミナー」を年間3回開催しました。その第2回目と第3回目の報告をさせていただきます。
会場風景
テーマ:教師のバーンアウトと生徒指導
講師:新井 肇先生
(兵庫大学大学院学校教育研究科)
日時:平成21年10月3日(土)
場所:キャンパスポート大阪会議室
新井肇先生
近年、教師の「長期病休者」が増加している。その中でも、精神疾患の割合が6割近くを占めている。また、この数値を全教師数に対する割合で表すと約200人に1人となる。しかし、この数値は、氷山の一角である。ここで示す「長期病休者」とは、3ヶ月以上休職した人の数を示し、1ヶ月・2ヶ月と短期で休職した教師の人数が含まれていない。そこで、その人数を加算してみると、実に約25人に1人が精神疾患により病休しているという結果になると思われます。
この言葉の本来の意味は、「対人的な援助の仕事による慢性的なストレスにさらされた結果、心身の疲弊と感情の枯渇を呈し、無力感、絶望感、自己卑下、仕事や生活への嫌悪、他者への思いやりの喪失を特徴とする」症候群のことであり、これは、対人専門職に特有のものである。
特に医師や教師が陥りやすいが、医師は、「1対1」の対人関係であるのに対し、教師は、「1対多」という対人関係を余儀なくされるので、なおさら厳しい状況に追い込まれてしまう。
「頑張っても認められない。」「自分の思ったことと逆の反応が返ってくる。」等のストレスが溜まり、時には攻撃的になってしまうこともあります。
また、近年、新採用教師の採用後1年以内の退職や定年前の優秀な教師の早期退職が増加している。このことも、バーンアウトが起因していると考えられます。
バーンアウトの3因子としては、「情緒的消耗感」「個人的達成感の後退」「脱人格化」が挙げられるが、いずれもグレーンゾーン等の早期段階における対処が重要です。
実態調査から、ほとんどの教師がバーンアウトを経験したりグレーンゾーン域に達していたことが分かりました。その中でも特に多くみられた心身症状は、「不眠、悪夢、早期覚醒」「神経性胃炎、胃潰瘍」「全身倦怠感」などで、その原因の多くは、「手に負えない児童生徒に振り回される」「職員間の共通理解や協力が得られず孤立する」「保護者との人間関係」「管理職との軋轢」等、対人的な要因であった。
また、バーンアウト発生の状況的要因は、「転勤や校内組織、児童生徒の変質」「予期しない、望まない分掌」「理解の枠組みの崩壊」「同僚のサポート欠如」等です。そして、「同僚や管理職、児童生徒や保護者の一言や否定的態度」が直接的契機となったり、個人の性格特性も起因となります。例えば、「手が抜けない。責任感が強い。」「万能感を抱きやすい。」「〜べき思考」等です。
バーンアウトへの対処方法は、同僚相互間のソーシャル・サポート、学校におけるサポート体制の具体化が必要です。例えば協働的な生徒指導、援助体制を確立し、1人で抱え込まずに、組織としてチームで対応するなどです。また、目標、情報、集団意志決定過程の共有化を図り、双方向のコミュニケーションを図などしてチームワークを高めることも必要です。情報をお互いに持ち合うための【冗長性】が重要で「無駄話」にも重要な役割があります。
上地安昭先生
この「元気の出るセミナー」は、全国にも誇れる素晴らしい取組である。生徒指導が困難な時代、本当に有意義なセミナーであると考える。また、本日の講演は、講師新井先生の豊富な体験と確かな資料を基にしたもので、大変素晴らしい内容であった。
みなさんの中からも、教員養成に力を発揮していただける人が出てくることを望んでいる。
この素晴らしいセミナーのように、今後みなさんも、現場の教師の様々なニーズに応えられる研修会を実施していただきたい。
会場風景
テーマ:教師のバーンアウトと生徒指導
講師:新井 肇先生
(兵庫大学大学院学校教育研究科)
日時:平成21年10月3日(土)
場所:キャンパスポート大阪会議室
平成21年度のセミナーも回を重ねて3回目となりました。本日の第3回セミナーでは「生徒指導とスクールソーシャルワーク」というテーマで、学んでいきたいと考えています。「スクールソーシャルワーカー」は、大阪府や滋賀県が精力的に取り組んでおり、関西ではなじみの取組と言えます。文部科学省でも、スクールソーシャルワーカーの活用については、学校教育が子どもの人格の完成だけでなく、社会の形成者としての子どもであるというとらえから、重要であると考えています。今後、子どもが社会生活の中で自己実現をどうするかという大きな展望をもち、学校教育の本質的なことであるという抑えの中で大きな柱として、議論をしていく方向があります。
子どもが社会生活を送れるようにすることは、学校教育にとって大きな課題ですから、全員で取り組んでいかなければならないことです。その中で、生徒指導の役割を改めて考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
郭 理恵先生
そもそも「ソーシャルワーク」とは、日本語に訳すと「社会福祉援助技術」と呼ばれ、法律で定められた社会サービスを必要としている人につないだり、生活支援などの自立にむけた援助を提供したりする技術を指します。「ソーシャルワーカー」は、個人とその人を取り巻く環境との相互作用に着目し、その人があたりまえに生きる環境を回復するために必要な援助を行います。学校で活躍するソーシャルワーカー、すなわち、「スクールソーシャルワーカー」は、教育という現場でソーシャルワーク実践を行う者で、子どもと、子どもを取り巻く環境に着目し、子どもがより良く学び、育まれる環境を保障するための援助を行う者のことです。
カウンセラーとよく何が違うのかと問われますが、カウンセラーは「個人、心理」に一番に着目するのに対し、ソーシャルワーカーは「環境」に着目するという視点の違いがあり、アイデンティティそのものに違いがあります。
実際に小学校への支援を行う中で、「学校崩壊」に出会いました。教員は憔悴しきっており、1日を過ごすことが精一杯の状況でした。このような中で何から行うべきか迷いましたが、子どもの声や子どもの状態を観察し、良い点を伝えるようにしていき、教員が見落としがちな視点を加えていくようにしました。問題を行う子どもについても、どのような背景をもち、その行動に意味があるのかを伝えていきました。
これらの事を繰り返し行うことで、現象(問題行動)が変化したわけではありませんが、教員の視点が変化することで教員自身が元気になっていく姿がみられました。
先生方にとって「話をゆっくりと聞いてくれる人」が一人でもいるということで、子どもとの接し方が変容していったり、関係機関との連携を積極的に行うなどの動きが出てきました。
活動形態には、@配置された学校の一員として活動する学校配置型、A拠点校では配置型活動を行いながら、依頼のあった学校へ巡回する拠点校巡回型、B配置場所の行政担当者を窓口に、依頼のある学校へ派遣される教育委員会からの派遣型の三種類あると言えます。
アプローチする分野として、個別・校内・地域があげられます。
個別というのは、事例へのアプローチで、社会資源の活用を促す教員への助言を行います。
校内とは、体制づくりへのアプローチで、校内ケース会議などに参加します。巡回型では、まず校内ケース会議に行くことが多いです。
そして、地域ですが、子どもの家庭相談体制づくりへのアプローチです。例えば、要保護児童対策地域協議会への参加などがあります。
アセスメントを行って、自立に向けた支援を行うのですが、アセスメントとは、目の前で起こっている事象は、背景に何があって起こっているのかを解き明かしていくことを言います。
アセスメントするためにはさまざまな情報が必要です。どういう情報を集めているのかを四つに分けて説明しますと、@家族という視点では、家族形態、生活習慣や文化、養育力などです。A発達の視点では、養育や障害、B学習の視点においては、低学力や学習の遅れ、C進路の視点では進学や就労です。
これらの視点でさまざまな情報を得てアセスメントを行い、その子自身を変えていくのでなく、環境を整え、「もともともっている生きる力を引き出す」ための支援を行うことを考えています。
問題行動をすぐにやめさせるのはむずかしいが、なぜ、こうなっているのかの背景を共有することで、先生方の関わりが変わってきます。子どもがキレていても、その背景からキレている原因が見えてくるのです。
市町村教育委員会や学校が「SSWをどう使いたいか」というビジョンをもち、担当者とSSWがそのビジョンを協働して形にするのが効果的です。具体的には、まず、SSWがどういうことができるかプレゼンテーションを行い、それぞれの立場で、使える・使えないと判断し、状況に合わせた活動の形を創りだしていくことがよいと考えています。
日本生徒指導学会関西地区研究会は、現場のための研究・実践を探求するという学会発足の初心に立ち返って、問題点や成果をお互いに共有しあい、次なるステップを生み出していく交流の場を設けてきました。
本年度は、その交流の場として以下のような全国大会を共催いたしました。これにより、本研究会が大切にしてきた取組が全国に広がってきた事を実感することができました。
ここに、みなさまに感謝申し上げるとともに概要を報告させていただきます。
来年度以降もこの方向を大切にしていきたいと考えています。今後も積極的にご参加いただきますようお願いいたします。
〔開催日時〕平成21年11月7日(土)〜8日(日)
〔開催場所〕兵庫県私学会館〔大会主催校〕兵庫教育大学〔実行委員長〕新井肇
〔参加者〕351人(全国会員96人、関西地区会員89人、非会員166人)
延べ人数 476人(7日:273人、8日:203人)
コーディネーター:森田洋司(大阪樟蔭女子大学)
パネリスト:上杉賢士(千葉大学)、滝充(国立教育政策研究所)、柳生和男(文教大学)
コーディネーター:藤平敦(国立教育政策研究所)
シンポジスト:山口満(筑波大学名誉教授・びわこ成蹊スポーツ大学名誉教授)、
横山利弘(関西学院大学)、八並光俊(東京理科大学)
「月刊生徒指導3月号」(学事出版)においても特集が組まれる予定です。
本年度は、全国大会を共催するとともに、三回の「元気の出るセミナー」を開催することができました。来年度については、@関西地区研究大会(8月上旬頃・土曜日)Aセミナー(2回・10月、12月頃)を計画しています。(平成22年5月頃に正式なご案内をさせていただく予定です。)